松谷司法書士事務所

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司法書士 松谷賢一郎

免責不許可事由(換金行為・偏頗弁済・浪費等)

免責不許可事由とは

自己破産の申し立てををしても、免責が許されないという「免責不許可決定」がなされることがあります。免責不許可ということは、借金の支払い義務がなくならないということです。
株式投資の失敗や、ギャンブル、浪費などが原因の借金については、免責が認められず、すべての借金が残ってしまうこととなる場合があります。

免責不許可事由

免責不許可事由のうち、個人破産でよく問題となるのは、以下ようなものです。破産法252号1項に規定されています。下記の一覧に「1号」と記載しているのは、破産法252号1項1号に規定があるという意味です。

①財産の隠匿等(1号)

財産があるのに、意図的に財産目録から除外したような場合、免責不許可事由となります。自分名義の不動産を親族の名義に変更するような行為も、これに該当します。

②換金行為等(2号)

破産申し立ての直前に、クレジットカードで買物をしてその商品を直ちに換金する行為(いわゆるショッピング枠の現金化)があると、免責不許可事由となります。

③偏頗弁済(3号)

特定の債権者に対してだけ偏った弁済を行った場合には、免責不許可事由に当たります。たとえば、世話になった親戚に対しては返済したいから先に返済してから自己破産する、などというようなことです。

④ギャンブルや浪費による財産の減少(4号)

収入を大きく超える買物をしたり、競馬やパチンコなどのギャンブル・株取引・FX取引などの射幸行為によって、著しく財産を減少させた場合には、免責不許可事由に当たります。

⑤詐欺的な借り入れ(5号)

破産申立前1年以内に、貸主に対して虚偽の所得証明書を提出したり虚偽の身分証明書を提示したりして、信用状態を偽って借り入れを受けたような場合には、免責不許可事由となります。

⑥その他(6号~11号)

上記以外にも、虚偽の債権者一覧表を提出したり、破産手続きにおいて裁判所が行う調査で虚偽の説明をしたりというような行為があった場合にも、免責不許可事由に該当します。

破産法252条(免責許可の決定の要件等)
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
1 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
2 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
3 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
4 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
5 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
6~11 略

免責観察型の管財手続きによる免責

免責観察型の管財手続きというのは、免責不許可事由にあたるような行為があり、そのままでは免責が許可できないようなケースにおいて、裁判所で選任された破産管財人が、破産者の家計の管理の状況などを監督し、指導することにより、そのことをもって裁判官が裁量免責を認めるかどうか再度判断するという、大阪地裁で行われている運用です。

免責不許可事由がある場合にも、反省文の提出や家計簿作成などによって裁判官が免責を認めることがあります。これを、「裁量免責」といいます。しかし、反省文の提出や家計簿作成だけでは免責を認めるのに不十分であると裁判官が判断した場合には、上記の免責観察型の管財手続きを行い、これにより免責が認められるということがあるのです。

自己破産の手続きにおいて、破産法252条の免責不許可事由にあたるようなケースは結構あるのですが、上記のような運用により、実際に免責不許可の決定がされることは非常に少なくなっています。大阪地裁での平成21年から平成23年までの統計では、免責不許可決定の割合は、0.1%程度だそうです。



非免責債権(税金や養育費など)について

自己破産をしても免責にならない債権とは

自己破産の手続きをして、上記の免責不許可事由がなければ、裁判所で免責決定がなされ、原則としてすべての債務の支払い義務がなくなります。
しかし例外的に、免責されない債権があります。ここからは、破産法253条1項1号~7号に規定されている、自己破産しても免責されない債権「非免責債権」について説明しています。

免責にならない債権(非免責債権)

非免責債権のうち、個人破産でよく問題となるのは、以下ようなものです。破産法253号1項に規定されています。下記の一覧に「1号」と記載しているのは、破産法253号1項1号に規定があるという意味です。

①租税等の請求権(1号)や罰金(7号)

租税等の請求権とは公的な請求権です。固定資産税や住民税のような税金や、健康保険税、年金、一部の水道代(下水道利用料金)などが、これに含まれます。固定資産税等を滞納していると、自己破産しても支払いを免れないということになります。

同様に、罰金についても、自己破産しても支払いを免れることはできません。

②破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(2号)

単なる不法行為ではなく、「悪意で加えた」不法行為です。ここでの「悪意」とは、積極的な加害の意思という意味として解釈されています。

たとえば、妻が、浮気をした夫に対して求める慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償請求の一種ですが、積極的に妻を害する意思が夫になければ、「悪意で加えた」不法行為とはならないため、非免責債権とはなりません。
したがって、このような場合に夫が破産すれば、妻が夫に対して有していた、浮気の慰謝料請求権は、夫に妻を害する意思がない限り、免責となることになります。

③破産者が故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(3号)

たとえば、暴行の被害者から加害者への損害賠償請求などの場合です。このような請求件については、自己破産しても、免責が認められないことになります。

交通事故の損害賠償請求権で言えば、危険運転致死傷罪が成立するような悪質な加害者は、「重過失」があると認定されれば、免責されないことになるでしょう。
しかし、わき見運転のような場合には、単なる過失と認定される可能性が高いでしょうから、加害者が破産すれば、被害者の有していた、損害賠償請求権は、免責となることになります。

④破産者が扶養義務者として負担すべき費用に関する請求権(4号)

具体的には、養育費や婚姻費用分担義務に基づく請求です。破産法が改正(平成17年1月1日)されるまでは、このような請求権も、免責の対象となっていましたが、改正により、非免責債権となりました。

破産法253条(免責許可の決定の効力等)
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
1 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
2 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
3 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
4 次に掲げる義務に係る請求権
 イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
 ロ 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
 ハ 民法第766条(同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
 ニ 民法877条から第880条までの規定による扶養の義務
 ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
5~6 略
7 罰金等の請求権

具体的な請求権ごとの免責・非免責一覧

【公的請求】

事例 免責・非免責
滞納している
税金・健康保険・国民年金(1号)
免責されない
滞納している罰金(7号) 免責されない

【交通事故】

事例 免責・非免責
重過失の交通事故
損害賠償請求(3号)
免責されない
一般的な過失の交通事
故損害賠償請求(3号)
免責される

【離婚】

事例 免責・非免責
妻から浮気をした夫に対して
求める慰謝料(2号)
免責される
妻からDVをした夫に対して
求める慰謝料(2号・3号)
免責されない
妻から夫に対して
求める養育費の請求(4号)
免責されない
滞納している税金等について

上記のとおり、税金は非免責債権ですから、自己破産をしても支払う必要があります。
税金は、分割して支払いたいと申し出れば、分納を認めてもらえることが多いです。また、納税の猶予が可能な場合もあります。猶予申請をして認められれば、延滞税の支払いの必要がなくなります。
国民年金にも同様に、免除制度があります。国民健康保険にも、減免の制度があります。このような制度を利用しましょう。

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