松谷司法書士事務所

このページの著者
司法書士 松谷賢一郎

借金の消滅時効の援用

消滅時効の「援用」とは

時効期間が経過したとしても、消滅時効の「援用」をしなければ、借金を消滅させることは出来ません。「援用」とは、時効の利益を受けるということを相手に伝えることを言います。
具体的には、消滅時効を援用するという通知を、配達証明付きの内容証明郵便で郵送するという方法によります。

内容証明郵便による時効援用通知

債権者に対して時効の援用をする具体的な方法は、時効援用通知書を、配達証明付きの内容証明郵便で郵送するという方法によります。
内容証明郵便というのは、「いつ、どんな内容の郵便が郵送されたか」を、郵便局(日本郵便株式会社)が証明してくれるという郵便サービスです。普通郵便で送ったのでは、配達証明付きで郵送することで書類が到達したことは証明できても、到達した文書の内容が証明できないため、証拠になりません。
これに対して、配達証明付き内容証明郵便であれば、文書の到達と、到達した文書の内容が時効援用通知であるということも両方証明できるため、裁判上の証拠とすることができます。
援用通知には、債務を特定できる情報(たとえば、契約番号や契約年月日など)を記載して、その債務に関して消滅時効の援用をするというような内容を記載します。

借金の消滅時効の援用権者

消滅時効の援用ができるのは、「時効により利益を受ける者」であり、借金の消滅時効を援用するのは、通常は借主です。しかし判例で、借主以外にも、時効の援用が認められているケースがあります。
たとえば、連帯保証人は、主債務の消滅時効の援用ができます。
連帯保証人に対してだけ訴訟提起があったような場合には、保証債務の時効期間だけが10年に延長(民法174条の2)されて、主債務は5年のままとなりますが、このような場合に、連帯保証人は、自分の保証債務の時効期間はまだ経過していなくても、主債務の消滅時効の援用ができます。
連帯保証人が主債務の消滅時効を援用することにより、保証債務も消滅します(保証債務の主債務に対する附従性から)。

時効が完成した後に返済をすると
~時効援用権喪失

消滅時効期間が経過した後であっても、消滅時効を主張することができなくなってしまうことがあります。
たとえば、時効期間経過後に業者からハガキがきて、請求されるままに1,000円だけ支払ったというような場合、支払った時点で時効援用権を失ってしまい、その1,000円の返済から5年間は、時効の援用ができなくなる可能性があります(信義則による時効援用権喪失を認めた最高裁昭和41年4月20日判決‐→最高裁HP)。
消費者金融等の中には、時効完成していることを知っていて、時効の援用をされる前にあえて請求して、少額の返済をさせて、時効の援用権を喪失させようとする業者もあります。
しかし、このような場合にも、消費者金融等の時効援用権喪失の主張が、信義則上認められないと判断され得る事案も多数存在します。
下記のような事例で、時効期間経過後に弁済があったにもかかわらず、時効援用権喪失の主張が、信義則上認められないと判断されています。

札幌簡易裁判所平成10年12月22日判決
(一部抜粋)

「信義則は個々の当事者間の具体的な取引場面における互いの信頼を保護する原則であるから、その適用に当たっては個別的な事情を考慮する必要がある。
すなわち両当事者それぞれの取引経験や法的知識の有無・程度、債務者が債務承認に至った事情などを検討したうえで、信義則の適用を決すべきである。

例えば、法的に無知な債務者にあえてこれを告げないまま債務の一部の弁済をさせたような場合や、債権者が債務者の時効援用の主張を封じるために時効完成後甘言を弄して少額の弁済をさせた上で態度を一変させて残元金及び多額に上る遅延損害金を請求するような場合は、債務者が時効を援用することは債務承認をした後といえども、信義則に反しないことがあり得ると考えられる。

むしろ、このような場合には信義則を適用して債務者の時効援用権を制限するよりも、本来の時効の効果をそのまま維持することが時効制度の趣旨からも、公平の観点からも合理的と言える。」

宇都宮簡易裁判所平成24年9月25日判決
(一部抜粋)

「債務の承認によって時効援用権喪失の効果が生ずるのは、信義則に照らした判断であるから、債務者の行動が債務承認に該当するかどうか、該当するとしてもこれによって時効援用権を喪失したとする債権者の認識を保護するに値するかどうかについては、事案の内容、時効完成前の債権者と債務者との交渉経過、時効完成後に債務を承認したと認めうる事情の有無、その後の債務者の弁済状況等を統合し、債権者と債権者との間において、もはや債務者が時効を援用しないであろうと債権者が信頼することが相当であると認め得る状況が生じたかどうかによって判断することが相当であると解する。

これを本件についてみると、本件債権は、貸金業者である原告と一般消費者である被告との間の継続的貸付取引によって生じたものであるところ、上記認定した事実関係のもとでは、時効完成後の原告の行動は、被告が時効制度等について無知であること、一括払いの請求に対して多くの多重債務者が分割払いの申出をするとともに僅かな金銭を支払うことによりその場をしのごうとする心理状態になることを利用し、被告がこのような申出をした場合には、一括払いの請求を維持しつつも弁済方法について再考を促して分割弁済に応じてもらえるかもしれないとの期待を与えて申出にかかる僅かな金銭を受領することにより一部弁済の実績を残すこと、その後被告に分割弁済の申出をさせることにより残債務の存在を承認したと評価できる実績を残すことを意図したものであると認められる。
そして、被告は、まさに原告の意図したとおりの反応を示し、翌日1万円を送金するとともに分割弁済の申出をしたものである。

そうすると、訪問した結果送金された1万円の金額は、本件貸付金の約定利率による残元金約50万円に対する毎月の約定弁済金2万円の半分にすぎず、期限の利益喪失を理由に残額約130万円の一括弁済を求める原告の権利行使の姿勢と比較すると債務の弁済としての実質をなしているとは認めがたいこと、その後全く弁済が行われていないこと、被告の分割弁済の申出に対して原告が当初から応ずる意思がなかったことなどの認められる本件の事情に照らすと、被告が1万円の支払いをしたこと及び分割弁済の申出をした事実は、従業員の訪問請求に対する被告の反射的な反応の域を出るものではないと解される。

したがって、その後、分割弁済の合意ができないにしても被告がその申出どおり分割弁済を継続したなど弁済に向けて被告が積極的な対応をした事実が認められる場合はともかく、被告の対応が上記認定した事実にとどまる本件においては、原告と被告間に、もはや被告において時効を援用しないと債権者が信頼することが相当であると認め得る状況が生じたとはいえないから、仮に原告におい、もはや被告が時効を援用しないであろうと信頼したとしても、この信頼は、信義則上保護するに足りない。」

当事務所で消滅時効の援用を行った実績のある会社

当事務所では、代理人として、数多くの時効援用の実績があります。下記の会社は、時効援用の実績の特に多い会社です。

  • 5年以上放置している借金がある
  • 住民票を移したら、督促状が届いた
  • 内容証明郵便で時効援用通知をしたい