松谷司法書士事務所

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司法書士 松谷賢一郎

任意整理と個人再生のどちらを選ぶ?

債務整理の方針を決める際に、支払い能力がまったくないのであれば、自己破産以外の方針は選択できませんが、支払い能力がある場合には、任意整理と個人再生の2つの手続きから、どちらかの手続きを選択できます。
お支払いできる金額やご家族の協力の状況、将来の収入や支出の見通しなどから、どちらの手続きが最適なのかを検討することになります。

毎月の支払い可能額から選択する

どちらの手続きがよいかの選択にあたって、まずは、毎月のお支払い可能額から判断することになります。
通常、任意整理の場合には、将来利息をカットしてもらって長期分割することで毎月の債務の返済額が下がることが多いですが、債務の元金が減らないので、毎月の返済額はそれほど劇的に下がるわけではありません。
これに対し、個人再生の場合には、民事再生法の規定に従って借金が大きく減額されます。債務者に特に財産がない場合には、借金が5分の1~10分の1程度にまで減額されるケースが多いです。
したがって、任意整理によって毎月の支払いが減少しても、それでも支払いが困難だという場合には、個人再生の方が債務の減額幅が大きいので、個人再生の手続きがおすすめとなります。

具体例

たとえば、下記のようなケースで考えてみます。
債務の総額が300万円あるとします。
この債務を、任意整理によって「和解後の将来利息をカット、60ヶ月の分割払い」にすれば、毎月の返済額は5万円になります(300万円÷60ヶ月)。
これに対して、個人再生をすると、債務の総額が240万円の場合、返済額は原則100万円となり、これを個人再生の原則的な弁済期間である3年で支払うと、毎月の返済額は約28,000円となります(100万円÷36ヶ月)。
このようなケースでは、「毎月4万円ぐらいはなんとか返済できる」というような方の場合、任意整理ではちょっと厳しく、個人再生の方がおすすめということになります。

任意整理がおすすめとなるケース

支払能力という点においては、任意整理と個人再生のどちらも選べる場合でも、「こんなときには、個人再生よりも任意整理がおすすめ」というケースが、いくつかあります。

家族に内緒で手続きしたい場合には任意整理のほうがおすすめ

任意整理の場合には、債権者と直接話し合いをするので、裁判所を利用しません。
これに対し個人再生は、「民事再生法」という法律にもとづいた裁判手続きなので、裁判所に申立をしなければなりません。
自己破産の場合も同じなのですが、裁判所に申し立てをする場合には、同居家族も含め、家計収支を証明するための資料の提出が必要となります。
そうすると、家族に内緒で債務整理をしたい方の場合、家族に関する資料の提出が必要な個人再生の手続きをすると、困った事態になります。資料の提出ができなければ、手続きが進みません。
任意整理の場合には、債権者に資料の提出を求められることはほとんどありませんので、家族に内緒で手続きを進める場合にも、困ったことになる可能性は低いです。
したがって、家族に内緒で手続きしたい場合には、資料の提出の必要がない任意整理のほうが、おすすめです。

何度も事務所に行けない場合には任意整理のほうがおすすめ

任意整理の場合には、債務者と債権者が直接話合いをして和解をまとめるだけの手続きなので、手続きは比較的簡単です。
したがって、事務所に来ていただく回数も、通常、1回限りです。
これに対し個人再生は、裁判所の関与のもとで進められることもあり、手続きが複雑で厳格です。
大量の資料が必要となりますので、通常、事務所にも資料の確認のために3~4回はお越しいただくことが多いです。
したがって、忙しくて何度も事務所に行くのは難しいというような方は、任意整理のほうが向いています。

除外したい債権者がある場合には任意整理のほうがおすすめ

任意整理の場合には、対象とする債権者を選べます。そこで、「保証人がついている借金」や「車のローン」、「親族や友人から借り入れている借金」などを外して借金を整理することが可能です。
これに対して個人再生の場合、債権者全員を対象にする必要があります(住宅ローンだけは除外できることがあります→個人再生の住宅ローン特別条項)。
車のローンや保証人がついている借金も個人からの借入も全部対象になるので、車がローン会社に引き上げられたり、保証人や借入先の個人に迷惑をかける結果になります。
このように、除外したい債権者がある場合には、任意整理のほうがおすすめです。

個人再生がおすすめとなるケース

任意整理と個人再生のどちらでも選べるとしても、「こんなときには、個人再生がおすすめ」というケースもあります。
典型的なケースを、いくつかご紹介いたします。

任意整理に応じにくい債権者がある場合には個人再生のほうがおすすめ

以前は細かい聞き取りをせずに簡単に「将来利息を免除して5年払い」というような和解ができていた会社でも、最近では、取引期間が短い場合など、なかなかこちらの希望する和解に応じてもらえないケースが増えてきています。任意整理は、債権者がこちらの希望する和解条件に応じてもらえない限り、強制的に和解をまとめることはできないのです。
個人再生は、裁判所が再生を認可してくれれば、法律の規定に基づき強制的に債務が減ることになります。債権者は再生計画の決議に反対をすることはできますが、過半数の反対がない限り再生は認可となりますので、債権額の少ない債権者が1社2社反対しても、関係なく再生は認可されることになります。
したがって、任意整理に応じない債権者がある場合には、法律の効果によって強制的に債務を減らす手続きである個人再生のほうがおすすめです。

将来の状況変化に対応するには個人再生のほうがおすすめ

個人再生の場合、支払い期間は原則「3年間」と法律上定められています。これに対して任意整理は、返済期間が何年となるかは債権者との話し合いで決定することになります。
任意整理の返済期間は、毎月の返済額を下げるため、できる限りの長期の返済で和解を求めていくことが多いです。しかし、長期の返済とすることは、毎月の返済額を下げられるというメリットがある反面、将来の状況の変化により払えなくなる可能性が高くなるというデメリットもあります。
したがって、高齢の方の場合や、お仕事が長く続けられない可能性がある場合などには、状況の変化により払えなってしまうリスクを下げるために、返済期間が任意整理よりも短くなる個人再生を選択した方が安全に完済できるということになります。

給与差し押さえなどを受けている場合には個人再生のほうがおすすめ

個人再生をすると、個人再生手続き開始決定と同時に差押えの手続きが止まります。
そこで、給与差し押さえなどを受けている場合には、差押えの手続きが中止されて、手続きが終わったら差押分の給料をまとめて受け取ることができます。
任意整理にはこのような効果がないので、差押を受けていたらそのまま取り立てが続きますし、差押をしているような債権者は、そもそも任意整理の話合いに応じてくれない可能性が高いです。
すでに給与差し押さえなどを受けている場合には、任意整理よりも個人再生のほうが有効です。
給与差し押さえへの対処法について詳しくはこちら

まとめ

以上のように、任意整理と個人再生は、似ているようで全く異なる制度です。借金問題に苦しんでいる場合、状況に応じた手続きを選択する必要があります。
簡単にまとめると、任意整理は「相手方を選べたり、資料の準備が必要なかったり、手続きが比較的カンタンにできるけど、債務減額の効果はあまり高くない」のに対して、個人再生は「全債権者を相手にする必要があり、資料は大量に用意する必要があり、手続きは大変だけど、債務を減らす効果は非常に大きい」という感じです。
「自分では、どっちを利用したら良いのかわからない」
そんなときには、債務整理の専門家である司法書士がアドバイスいたしますので、お気軽にご相談下さい。
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