債務整理と自動車の引き揚げ

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債務整理しても車を残せるか

司法書士松谷の写真

債務整理にあたり、車がどうなるのかをご心配される方も多いのではないでしょうか。

「債務整理すると車は残せないのか」「車は生活に絶対に必要なので、車を残して債務整理したい」というご相談をよくいただきます。

このページでは、債務整理をすると車はどうなるのか、どのような場合に車を残せるのか、車を残せない場合にはどうすればいいのか等について、司法書士がご説明しています。

債務整理しても車が引き揚げられないローンもある

債務整理をして車を手放すことになるのは、①車がローン中で、②ローン会社が車に「所有権留保」という担保を付けていて、③そのローンについて債務整理をする場合です。

これら3つの条件にあてはまると、所有権留保された自動車は、ローン会社に引き揚げられてオークションなどで売却され、売却代金がローンの残額の弁済にあてられることになります。

しかし、②の「所有権留保」という担保は、ローンで車を購入すれば必ず付いているというわけではありません。

こちらの全国銀行協会のホームページのマイカーローンの説明のページでも紹介されていますが、銀行などのマイカーローンの場合は通常、自動車の所有者は購入者になります。「所有者が購入者となる」の意味は、購入した自動車にローン会社や販売会社の所有権留保が付かないという意味です。

したがって通常は、銀行でマイカーローンなどを組んで購入した車の場合、そのローンについて債務整理をしても、車は引き揚げにならないということになります。

ローンで購入された車に所有権留保が付いているかどうかは、ローンの契約書で確認できます。ローンの契約書に所有権留保の条項がなければ、ローン時に自動車は担保に取られていないということになり、車に所有権留保は付いていないということが確認できます。

債務整理手続き別、車を残せるケース

債務整理をしても、車を残せることがあります。
債務整理の手続きには、任意整理・自己破産・個人再生の3種類ありますが、車を残せるのはどのようなケースなのか、手続きごとにご説明いたします。

任意整理で車を残せるケース

まず、任意整理の場合です。任意整理は、最も車をお手元に残しやすい債務整理法です。

上記でご説明したとおり、債務整理して車を失うことになる理由は、車のローンを債務整理すると、車に所有権留保という担保を付けているローン会社が、車を引き揚げてしまうためでした。

そうすると、車のローンを債務整理しなければ、車を引き揚げられることはないということになります。

任意整理は、自己破産や個人再生と違い、すべての債権についてする必要のない債務整理法です。つまり、多重債務の状態になっている場合に、すべての債権者ではなく、一部の債権者だけを選んですることができます。

したがって、車を引き揚げられたくなければ、車のローンを任意整理から除外し、車のローン以外の債権者を相手にして任意整理をすれば、車のローンは今まで通り払い続けることで、車を失わなくても済むということになります。

ただし、ここでひとつ、ご注意いただきたい点があります。

それは、同じ会社に車のローンとカードローン等がある場合には、カードローンは任意整理するけれども、車のローンは任意整理しないということは、原則としてできないということです。

任意整理は会社ごとにしますので、ある会社に対して任意整理すると、その会社が持っている債権すべてが任意整理の対象となり、一部の債権を除外する(車のローンは除外する)ということは、原則としてできないのです。

過去に当事務所で、ダメ元で交渉した結果、車のローンは除外してカードローンだけを任意整理することに債権者が同意してくれたケースはありますが、これは例外的な珍しいケースと言えます。通常は、車を絶対に残したいのであれば、車のローン会社にカードローンもあるなら、両方とも任意整理から除外するべきです。

任意整理で車を残せるケース・・・
車のローンを任意整理から除外し、他の債権者のみについて任意整理をすれば車を残せる。 ただし、同じ会社に車のローンとカードローンがあれば、その会社のローンはすべて任意整理から除外する必要がある。

自己破産で車を残せるケース

次に、自己破産の場合です。

自己破産の場合には、任意整理と違って一部の債権者を除外して手続きすることは認められないため、車のローンを手続きから除外することはできません。

したがって、車のローン会社にも、自己破産の受任通知を送ります。すると、車に「所有権留保」を付けているローン会社は、車の引き揚げにかかります。早ければ2週間ぐらいで、車を引き揚げていきます。

ただしこれは、車がローン中である場合です。
ローンを使わずに一括払いで車を購入した場合や、ローンを使って購入したとしてもローンが完済されている場合には、自己破産をしても車が引き上げられることはありません。

また、ローン中の車であっても、自己破産の手続きの前にローンを完済してしまうことができれば、ローン会社に車を引き揚げられることはなくなり、車を残せることになります。

ただしここでご注意いただきたいのは、車のローンを完済する際、自分の収入から払ってはダメということです。

自己破産の直前に一部の債権者(車のローン会社)のみに対して支払いをすることは、債権者の平等を害する行為として破産法で禁止されており、「偏頗弁済(へんぱべんさい)」という免責不許可事由にあたりますので、非常にまずいです。

免責不許可事由とは

したがって、自分の収入からローンを完済するのではなく、親族などにお願いして、親族の資金から完済をしていただく必要があります。

親族に「借りて」払うのも、ダメです。もし親族に頼んで車のローンを完済してもらえるなら、必ず、返済する必要のない「援助」という約束で払ってもらうようにしてください。

「管財事件」になると車は売却される

ローン会社が担保権(所有権留保)によって車を引き揚げていくパターンのほかに、もうひとつ自己破産で車を失うパターンがあります。

それは、自己破産の手続きが、「同時廃止」ではなく、「管財事件」となった場合です。
「同時廃止」は、破産者の財産が一定以下である場合に選択される簡易な破産の手続きで、「管財事件」は、破産者の財産が一定以上である場合に選択される、複雑な破産の手続きです。

このうち、管財事件の場合には、裁判所が破産者の財産のうち、価値のあるものについては売却して現金化(これを「換価」といいます)して、代金を債権者に配当していきますので、その手続きの中で、車も売られてしまいます。

これに対して、車に大きな経済的価値がなく、ほかにも大きな価値のある財産がない場合は、「同時廃止」となります。同時廃止の自己破産手続きでは、財産を換価する手続きがありませんので、車はお手元に残しておくことができます。

なお、自動車の経済的価値について、大阪地方裁判所では、「日本製の普通自動車であれば、初年度登録から7年を超え、新車時の車両本体価格が300万円以下の場合と、軽自動車・商用自動車であれば、初年度登録から5年を超える場合」には、その車には経済的価値がないと判断しています。
※車に実質的価値がないとする基準は、裁判所によって異なります。

自己破産で車を残せるケース・・・
ローン中の車については、原則はローン会社により引揚げされるが、第三者の援助でローンを完済すれば手元に残せる。ローン中ではない車については、自己破産が管財事件になると売却換価されてしまうため手元に残せないが、同時廃止になれば、手元に残せる。

個人再生で車を残せるケース

個人再生には、自己破産の「管財事件」のような財産を換価する手続きはありませんが、自己破産の場合と同様に、車のローンを除外して手続きすることは認められず、車がローン中であれば、車に「所有権留保」を付けているローン会社によって、車は引き揚げられることになります。

どうしても車を残したい場合には、車のローンを完済するしかないというのも、自己破産の場合と同じです。

そして、自己破産の場合と同様に、車のローンを自分の資金で完済することは、再生の認可の判断において、不利に働く可能性があります。裁判所が、不当な目的で再生の申立がされたと判断すれば、再生の申立が棄却される可能性があります。

したがって、ローンを完済することで車の引揚げを回避しようと思えば、自己破産の場合と同様、親族などの第三者に援助してもらい、自己資金以外の資金でローンを完済する方法になります。

車の価値によっては再生の返済額が上がることも(清算価値保障)

上記のように、個人再生の場合には、ローン中ではない車や、親族などの第三者の援助で車のローンを完済した車はお手元に残すことができますが、あまり価値の高い車については、この方法はおすすめできません。

それは、その車の価値が高い場合、再生の返済額が通常よりも上がる可能性があるためです。

車の価値が高いと再生の返済額が通常よりも上がる理由は、個人再生には「清算価値保障原則」があるためです。清算価値保障原則とは、「債務者は債権者に、持っている財産の総額以上の額を支払わなければならない」という個人再生の最低弁済額に関する原則です。

言い換えると、「再生の返済額を決めるにあたっては、持っている財産を下回る返済額とすることは許されない」というルールです。

具体的な例でご説明します。たとえば、財産が大きくなければ債務総額600万円の1/5の120万円が返済額となるようなケースであっても、車の価値を含む財産総額が200万円あるなら、清算価値保障原則により、再生の返済額は200万円まで上がってしまうということになります。

別除権協定(弁済協定)により車を残せるケース

個人再生の場合、もうひとつ、例外的に車を残せる方法があります。それが「別除権協定(弁済協定)」を利用する方法です。

弁済協定とは、車のローン会社との間でローンを支払うことを約束して、約束通りに払う代わりに車を引き揚げないようにしてもらう協定です。

ただ、個人再生には「債権者平等の原則」があり、車のローン会社だけにローンを支払う行為は、本来は禁止される行為です。したがって、弁済協定を締結する場合は、裁判所に車について弁済協定を締結する必要性について説明して、認められる必要があります。

裁判所に認めてもらうことができれば、ローンの支払いを継続することができ、車を引き揚げられることなく手元に残すことができるようになります。

しかし、実務上は、裁判所に別除権協定を認めてもらうことはかなり難しいです。

大阪地方裁判所では、サラリーマンが通勤等に自動車を使用しているようなケースでは、弁済協定の必要性は認められないようです(はい6民ですお答えします(2018年10月第2版)P.504)。

したがって、弁済協定の必要性を裁判所に認めてもらえるのは、個人タクシーや個人運送業者など、事業に車が不可欠である場合を除いては、あまり期待しないほうがよいでしょう。

個人再生で車を残せるケース・・・
ローン中の車については、第三者の援助でローンを完済すれば手元に残せる。ただし、車の価値が高いと、再生後の返済額が上がることがある。別除権協定(弁済協定)により車を残せるケースもあるが、事業に車が不可欠である場合を除いては難しい。

最高裁平成22年6月4日判決とは

自己破産や個人再生における車の引き揚げに関して、非常に悩ましい最高裁判例があります。
それが、最高裁平成22年6月4日判決です。

この判決の事例では、車検証の名義がローン会社ではなく販売店となっていることなどから、裁判所は自動車の引き揚げを認めませんでした。

この最高裁判例については、別のページで詳しくご説明しています。

まとめ

以上、車を残して債務整理ができるケース、できないケースについてご説明いたしました。

自己破産や個人再生で、ローンの完済ができない場合など、車を残せないケースはあります。ただし、ローン会社に車を引き上げられたとしても、再度車を購入することは可能です。もちろん、ローンを組んで購入することはできませんので、現金で購入することとなりますから、資金を確保する必要はありますが。

また、自己破産中に車を購入するなら、必要性が高くなければ、浪費と見られ、免責の判断に悪影響がでることもありますので、車を購入すべきかどうかは、慎重に判断しなければいけません。

いずれにしても、債務整理の際、自動車の取り扱いは慎重にする必要がありますので、まずは司法書士にご相談いただければと思います。

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