消滅時効期間が経過していても、時効の効果は当然には発生せず、時効の利益を受けようとする場合には、その旨の意思表示をすることが必要とされています。
この、時効の利益を受けようとする意思表示のことを、「消滅時効の援用」といいます。
NHKは過去の滞納分をすべて請求してきますが、消滅時効の援用をすることにより、時効期間が経過している分については支払う義務がなくなります。時効期間は「5年」です(最高裁平成 26 年9月5日判決)。
ただし、消滅時効の援用で消滅させることができるのは、時効期間が経過した「5年以上前」の受信料であり、時効期間が経過していない「直近5年分」の受信料については、支払う必要があります。
たとえば、平成28年6月分以前のNHK放送受信料債権について時効援用し、平成28年6月以前の債務を消滅させた場合でも、平成28年7月以降の受信料については支払う必要があります。
この直近5年分の受信料の支払いに関しては、NHKから「放送受信料未払い確認書」という書類が送られてきます。こちらの確認書に、平成28年7月以降の受信料の未払い額が書かれています。これを返送すれば、平成28年7月以降の受信料の額については、債務承認したことになります。
振込用紙も送られてきますので、平成28年7月以降の受信料はこの振込用紙で支払うことになります。一括払いの請求となっていますので、一括で支払うのが難しければ、分割払いの交渉が必要です。
NHK受信料(定期給付債権)に関する民法改正
近年、民法が改正されてNHK受信料の消滅時効期間も若干の影響を受けました。
改正前の民法においては、NHK受信料の消滅時効が成立するのに必要な期間は「5年」でした。これは、NHK受信料は「定期払いの債権(定期給付債権)」として5年の「短期消滅時効」が定められていたからです。
当時、債権の原則的な時効期間は10年とされており、NHK受信料のような定期給付債権については5年とする特則が適用されていました。
しかし、改正後の民法においては、時効期間は「すべての債権について5年」に統一され、定期給付債権についての短期消滅時効の規定は存在意義を失って、廃止されました。
つまり、改正前は定期給付債権として時効期間が5年だったのが、改正後はすべての債権の時効期間が5年となったということで、改正前も改正後も、NHK受信料の消滅時効が成立するまでの年数は「5年」であり、変更はありません。
消滅時効期間の起算点は、改正後は「債権者が権利を行使できることを知ったときから」ですが、NHKは通常「不払いが発生したと同時に不払い受信料を請求できることを知る」でしょうから、実質的に改正前も改正後で、時効の期間と起算点のいずれについても、ほぼ変更はないといってよいでしょう。
なお改正民法が施行されたのは2020年4月1日です。その前に発生した債権については旧民法が適用され、その後に発生した債権については改正後の民法が適用されます。
NHK受信料の時効の起算点は?
民法の規定をふまえて、NHK受信料の時効期間である「5年」は、具体的にいつからカウントするのか検討しましょう。
実はこの点については「NHKとの受信契約」を締結しているかどうかで異なる可能性があります。
受信契約を締結している場合
受信契約を締結している場合、基本的に「最終支払日の翌日」から5年をカウントします。つまり最後にNHK受信料を支払った翌日から5年が経過した時点で受信料の支払い義務が消滅します。
ただし契約締結後1度も支払いをしていなければ、1回目の支払期限の翌日から数えて5年が経過した時点で受信料の時効が成立します。
受信契約を締結していない場合
NHKとの受信契約を締結していない場合、「契約成立時」まで時効期間が進行しません。契約が成立するのは、「NHKが起こした裁判の判決が確定したとき」です。
つまり、判決によってNHK受信契約が成立するまで時効が進行しないので、契約未締結の状態では、いくら時間が経っても消滅時効が成立しないことになります。
受信契約を締結せずに不払いを続けている場合、テレビ等の受信機を設置した時点からのすべての受信料を払わねばならない可能性があります。
この点については「平成29年12月6日最高裁判決」で詳しく述べられているので、次項で詳しくご説明します。